AIコラム

生成AIを使っていて、「これって、どうやってこんなに柔軟に対応してくれるんだろう」と思うことはありませんか。同じ内容を子供向けに説明してもらったり、フォーマルな文書からカジュアルなメールに変換してもらったり。まるで魔法のように、私たちの要求に応えてくれますよね。
実は、この柔軟性の背景には、生成AIが持つとても興味深い能力があります。それは「形式と意味を分離して扱う」という特徴です。これを理解すると、AIをもっと効果的に活用できるようになるかもしれません。
生成AIは、私たちが入力した情報を「形式」「意味」「抽象的な概念」といった要素に分けて理解しているようです。
例えば、楽譜と音楽の関係に似ているかもしれません。楽譜という「形式」があって、そこに込められた「メロディやハーモニーの意味」があります。同じメロディを、ピアノで弾いたり、ギターで弾いたり、オーケストラで演奏したりできますよね。楽器という「形式」は変わっても、音楽の「意味」は保たれています。
生成AIも同じようなことができるのです。
まず、「形式を維持して意味を変える」という使い方を見てみましょう。
例えば、お詫びメールのテンプレートがあったとします。「この度は〜でご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。今後は〜を徹底し、再発防止に努めてまいります」という文章構造(形式)は同じでも、遅刻のお詫び、商品不具合のお詫び、システム障害のお詫びなど、様々な内容(意味)に応用できます。
生成AIは、この「お詫びメールの形式」を理解して、異なる状況に合わせて内容を生成してくれます。つまり、一度良い形式を見つけたら、それをテンプレートとして様々な場面で再利用できるということですね。
報告書でも同じことができます。「背景→現状分析→課題→解決策→今後の予定」という構造を保ちながら、マーケティング報告書、技術報告書、プロジェクト報告書など、異なる内容の文書を作成できます。
逆に、「意味を変えずに形式を変える」こともできます。これがまた便利なんです。
同じ内容でも、読み手や目的に合わせて表現を変えられます。例えば:
子供向け:
「コンピューターがとても賢くなって、人間の言葉を理解してお話しできるようになったよ」
一般向け:
「AI技術の発展により、自然言語での対話が可能になりました」
専門家向け:
「大規模言語モデルの実装により、自然言語処理における対話システムが実用レベルに到達」
同じ「AIが対話できるようになった」という意味を、読み手のレベルに合わせて形式を変えて表現しているわけです。
言語も変えられます。日本語で書いた企画書を英語のプレゼン資料に変換したり、逆に英語の論文を日本語の分かりやすい記事にしたり。意味の核心部分は保ちながら、形式を自由に変更できます。
さらに面白いのは、相手の価値観や立場に合わせて表現を調整できることです。例えば、新しいシステムを導入する話を、異なる相手に説明する場合を考えてみましょう
田舎のおじいちゃんに説明する時:
「今度、お店の注文がもっと楽になる仕組みを入れるんです。昔は電話で一つ一つ聞いて手で書いてたでしょ?それが、ボタンを押すだけで自動で記録されるようになるんですよ。まるで、手紙を書く代わりにファックスが使えるようになった時みたいなもので、同じことがもっと簡単にできるようになるんです」
上司に説明する時:
「今回のシステム導入は、当社が長年培ってきた業務フローの基本は一切変えません。ただし、これまで手作業で行っていた部分を機械が代行することで、人為的なミスを防ぎ、より確実な業務遂行が可能になります。従来の品質基準を維持しながら、リスクを大幅に軽減できる投資です」
会社に慣れていない新人に説明する時:
「新しいシステムを導入するんだけど、心配しないでね。今覚えてもらっている基本的な流れは全く同じで、ただ入力方法が少し変わるだけ。むしろ、今まで先輩に聞かないと分からなかったことも、システムが教えてくれるようになるから、一人でも安心して作業できるようになるよ」
同じシステム導入という話ですが、相手が理解しやすい例え話や、その人が気にしそうなポイント(おじいちゃんなら身近な体験、硬い上司なら安全性、新人なら不安の解消)に合わせて表現を変えているんです。これにより、それぞれの相手にとって「ああ、そういうことなら分かる」と感じられる伝え方ができるようになります。
この能力を活用すると、こんなことができるようになります。
テンプレート作成
一度良い文書の構造を作ったら、それを様々な内容に応用できます。提案書、議事録、マニュアルなど、「この形式が効果的だった」というパターンを蓄積して再利用していけます。
多様な読者への対応
同じ情報でも、新入社員向け、管理職向け、お客様向けなど、それぞれに適した形式で提供できます。内容の本質は変えずに、表現方法だけを調整するのです。
国際的なコミュニケーション
日本語で考えた企画を、英語圏の同僚に説明するときも、文化的な背景や表現習慣の違いを考慮して形式を調整してもらえます。
この「形式と意味の分離」という能力は、私たちの仕事をとても効率的にしてくれます。
従来は、同じような内容でも、読み手や目的が変わるたびに一から文章を書き直していました。でも、生成AIのこの特徴を理解していれば、「意味は同じで形式だけ変えて」「この構造を保ちながら内容を変えて」といった具体的な指示ができるようになります。
まるで、料理のレシピを覚えて、材料を変えながら色々な料理を作れるようになったり、基本の動作を覚えて色々なダンスを踊れるようになったりするのと似ているかもしれません。
この機能を効果的に使うには、自分が「形式を重視したいのか」「意味を重視したいのか」を明確にすることが大切です。
「この報告書の構造を使って、別のプロジェクトの報告書を作りたい」(形式重視)なのか、「この技術説明を、もっと分かりやすく書き直したい」(意味重視)なのか。
目的を明確にしてAIに指示することで、より精度の高いアウトプットが得られるのではないでしょうか。
生成AIのこの能力は、単なる効率化ツールを超えて、新しい創造の可能性も開いてくれます。
今まで思いつかなかった表現形式で、自分のアイデアを伝えられるかもしれません。異なる文化圏の人たちとのコミュニケーションが、もっとスムーズになるかもしれません。
形式と意味を自在に組み合わせることで、今までにない価値のあるコンテンツを生み出していける。そんな未来が、なんだかとても楽しみです。
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著者:林 栄一
(林せんせい)
株式会社SHIFT「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。